個人事業主の経費に上限はある?いくらまで落とせるか——3つの誤解と本当の線引き

【PR】本記事には広告が含まれています。2026年6月時点の情報をもとに作成しました。

デスクワークの人が車を買ったら、経費になるのか。逆に運送業の人間がレンタルオフィスを借りたら、落ちるのか。独立準備で経費を調べはじめた僕が最初にぶつかったのは、「いくらまで」という上限額より先に、そもそも経費は何で決まるのかという疑問でした。

検索すると、どの記事も「経費に上限はない」と書いています。そのくせ同じ記事が「経費率が高すぎると税務調査が来る」とも言う。本当のラインがあるのに、誰も言わないだけでは?——そう疑いながら国税庁などの一次ソースを読んで思ったのは、僕を含めて多くの人が3つの誤解を抱えたまま検索しているのでは?ということでした。①「年間いくらまで」という金額の壁があるはず、②経費率◯%を超えたら税務調査が来る、③業種ごとに落とせる物が決まっている。この記事ではこの3つの誤解を1つずつ順番に解いていきます。

僕は中小企業の運送会社で働く47歳のトラック運転手で、税理士でも会計の専門家でもなく、これから独立する側の目線で一次ソースを読んでいる人間です。

先に調べた結論だけ言うと、上限額も「安全な割合」も存在しませんでした。あるのは「記録が裏付ける説明」だけ。怖いのは申告の日ではなく、聞かれた日に何も出せないことです。

なお、確定申告の必要書類は記事16(確定申告の必要書類)、青色申告の65万円控除は記事25(65万円控除の条件)、会計ソフトの比較は記事6(クラウド会計比較)に譲ります。ここでは「経費の線引きは何で決まるか」だけに絞りました。

目次

最初に答えます——経費に上限はない。なのに不安が消えない理由

結論:法律に「年間◯万円まで」は存在しない

結論から言うと、個人事業主の経費に「年間◯万円まで」という上限額はありません

国税庁タックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)では、必要経費に算入できる金額として《総収入金額に対応する売上原価など、収入を得るために直接かかった費用と、その年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用》が挙げられています
(《》内は原文の趣旨を僕の言葉でまとめたものです。以下同じ)。

読んでわかるとおり、ここにあるのは「事業の収入とどう関係しているか」という基準だけで、金額の上限はどこにも出てきません。売上1,000万円の人にも100万円の人にも、「経費はここまで」という共通の上限額は決められていないわけです。

つまり「いくらまで落とせるか」という僕の最初の質問は、問いの立て方からズレていました。正しい質問は「この支出は事業とどう関係しているか」。経費を決めるのは額ではなく、事業との関係です。

それでもモヤモヤする正体=3つの誤解

「上限はない」と聞いても、不安は消えないと思います。僕も消えませんでした。むしろ「ないならなぜ、経費率が高いと調査が来るなんて話があるんだ?」と疑問が増えたくらいです。調べていくと、このモヤモヤの正体は次の3つの誤解に分解できました。

誤解僕の思い込み調べてわかったこと
①金額の壁「年間いくらまで」という上限額があるはず上限額はない。金額による決まりがあるのは、高い買い物をしたときの扱いだけ
②危険な%経費率◯%を超えたら税務調査が来る「経費が◯%を超えたら危ない」という基準を、国は一度も公表していない
③業種の縛り業種ごとに落とせる物が決まっている決めるのは業種ではなく、その支出の使われ方

この後、この3つの誤解を1つずつ順番に解いていきます。①の金額の話はすぐ次の「『年間いくらまで』という金額の壁があるはず」で、②と③もそれぞれ同じ名前の見出しで詳しく説明します。

すでに知りたいことが決まっている方への道案内も書いておきます。車や家賃など品目別の線引きだけ確認したい方は、誤解③のところにある早見表へ。経費をごまかしたらどうなるのかが気になる方は、後述の「『ウソをつき通せば落とせるのでは?』」へ飛んでください。順に読まなくても伝わるように書いています。

誤解①「年間いくらまで」という金額の壁があるはず

金額の決まりが出てくるのは「高い買い物」をしたときだけ

前述のとおり、経費の合計に上限額はありません。それでも調べていると「10万円」「30万円」といった金額が何度も出てきます。僕が「やっぱり上限があるんじゃないか」と勘違いした原因はこれでした。

正体は減価償却です。減価償却とは、ざっくり言えば「何年も使う高い物は、買った年にまとめてではなく、使う年数に分けて少しずつ経費にしていく仕組み」のことです。

国税庁タックスアンサーNo.2100「減価償却のあらまし」(令和7年4月1日現在法令等)では、《建物や車のように長く使う資産の購入額は、買った年に全額経費にするのではなく、使える期間(法定耐用年数)に分けて経費にしていく。ただし使用可能期間が1年未満の物や取得価額10万円未満の物は、使いはじめた年に全額を必要経費にできる》とまとめられています。

つまり10万円や30万円という数字は「これ以上は経費にできない」という壁ではなく、「何年に分けて経費にするか」の分かれ目です。経費にならないのではなく、経費になるタイミングが変わるだけ。20万円のパソコンなら、数年に分けて合計20万円ぶんを経費に計上していけます。

ここで1つ、僕自身が引っかかった勘違いを先に潰しておきます。「20万円が経費で落ちる」と言っても、20万円が戻ってきてパソコンが無料になるわけではありません。経費とは、税金を計算するときに売上から引いてよい金額のことです。引いた分だけ課税される所得が小さくなるので、安くなるのはその所得にかかるはずだった税金のぶんだけ。

たとえば所得税と住民税を合わせて税率30%の人なら、20万円の経費で軽くなる税金は約6万円です(税率は所得によって変わります)。「経費で落とす=タダになる」ではなく、「買った金額の2〜3割ほど税金が軽くなる」くらいの感覚が実態に近いと思います。

「経費で全額下りる」は会社員の話。個人事業主とは意味が違う

ついでに言葉のことも整理しておきます。漫画やドラマで「経費で落とせる」と喜ぶ場面をよく見ます。あれと個人事業主の経費は、同じ言葉でも中身がまるで違います。僕も最初はここを混同していました。

会社員の場合、出張の電車代や接待代を自分の財布で立て替えます。あとで会社に申請すると、そのお金が払い戻されます。これが「経費が下りる」の意味です。払った分が手元に戻るので、本人の持ち出しはゼロになります。

個人事業主には、この立て替えを返してくれる会社がありません。払うのも自分で、財布はひとつきりです。だからお金は戻ってきません。この記事で言う「経費にする」は、税金の計算上の話です。売上から経費を引いた残り(もうけ)に税金がかかるので、経費が多いほどかかる税金が少し軽くなるわけです。

立場「経費」の効果お金は戻る?
漫画やドラマのセリフ会社員立て替えた分を会社が払い戻す戻る(全額)
この記事の話個人事業主税金の計算で売上から差し引ける戻らない(税金が少し減るだけ)

混乱の正体はこれでした。同じ「経費が下りる」でも、会社員では払い戻し、個人事業主では節税を指します。独立準備中の僕らが気にすべきなのは、後者の「税金が軽くなる」ほうです。

2026年4月から「40万円未満」まで一気に落とせるようになった

ちょうど今年の春に経費関連で動きがありました。

財務省が令和7年12月に閣議決定した「令和8年度税制改正の大綱」では、《中小企業者等の少額減価償却資産の特例について、対象資産の取得価額を現行の30万円未満から40万円未満に引き上げる。所得税についても同様とする》とまとめられています。この内容を含む改正法は2026年3月31日に成立しました。

中小企業庁の「少額減価償却資産の特例」のページでも、《中小企業者等が取得価額40万円未満の減価償却資産を取得した場合、合計300万円までを限度に全額をその年の費用にできる》と説明されています。償却資産とは、パソコンや機械のように何年も使うために減価償却の対象になる物のことです。

個人事業主向けに整理し直すと、次のとおりです。

項目2026年3月31日までに取得2026年4月1日以後に取得
1つあたりの取得価額30万円未満40万円未満
年間の合計枠300万円まで300万円まで(変更なし)
使える人青色申告の個人事業主など同じ(従業員数の要件が法人・個人とも500人以下→400人以下に引き下げ)
経費にするタイミング使いはじめた年に全額同じ

読み方の例を挙げます。35万円のパソコンを2026年3月に買っていたら特例の対象外なので、数年に分けて減価償却します。同じパソコンを4月以後に買えば、その年に35万円まるごと経費にできます。買った日が3月31日以前か4月1日以後かで扱いが変わるので、今年高い買い物をした方は領収書の日付を確認してください。

注意点は2つあります。この特例を使えるのは青色申告の方だけで、白色申告では使えません。それと2026年6月時点では、国税庁のタックスアンサー(No.5408)にまだ改正前の「30万円未満」という記載が残っています(No.5408は法人向けの番号で、個人事業主の根拠は別の条文ですが、特例の中身は共通です)。古い数字を見て混乱しないよう、最新の条件は中小企業庁の案内や税務署で確認してください。

「年300万円まで」は経費の上限ではなく特例の枠

ここで冒頭の誤解に戻ります。「年間300万円まで」という数字だけを見ると、いかにも経費の上限額に見えます。実際、僕も最初はそう読み間違えました。

でもこの300万円は、「40万円未満の物をその年に一括で落とせる」という特例を使える合計の枠にすぎません。枠を超えた分は経費にできないのではなく、通常の減価償却に戻って数年に分けて経費にするだけです。経費の総額そのものには、やはり上限がありません。

整理すると、誤解①の答えはこうなります。経費全体に金額の壁はない。あるのは「高い買い物を何年に分けるか」のルールと、それを一括にできる特例の枠だけ。むしろ金額より気になるのは「経費の割合」のほうではないでしょうか。次の誤解②で、その話に進みます。

誤解②「経費率◯%を超えたら税務調査が来る」

「◯%なら安全」の根拠を探したら、どこにもなかった

経費について調べていると、「業種別の経費率の目安」という表によく出会います。卸売なら90%、飲食なら60%のような数字です。

これを見ると「この割合を超えたら危ない」と感じるのではないでしょうか?ところが出どころを確かめようと国税庁の公表資料を探したところ、いくら探しても見つかりませんでした。2026年6月時点で、「経費が売上の◯%を超えたら調査する」という公的な基準は存在しなかったのです。

ネットで見かける目安の多くは、税理士の経験談や統計からの逆算で、国が決めた線ではありません。だからこの記事では「◯%までなら安全」とは書きません。書けないのではなく、そんな線はそもそも存在しないというのが調べた結論です。

国税庁が公表しているのは「割合」ではなく「選び方と結果」

では税務署は何を見ているのか。国税庁が令和7年12月に公表した「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」では、《実地調査と簡易な接触を合わせた調査等は73万6千件で、うち申告漏れなどの誤りが見つかったのは36万9千件。調査先の選定にAIを活用するなどした結果、追徴税額の総額は過去最高になった》とまとめられています。

この資料に何が載っていて、何が載っていないか。整理するとこうなります。

  • 載っているもの:調査の件数と追徴税額の実績、1件あたりの申告漏れが大きい業種の順位、無申告やネット取引といった力を入れている分野
  • 載っていないもの:経費率の基準。「◯%を超えたら調査する」という線は一度も出てきません

読み取れるのは、申告の内容をデータで分析し、過去に誤りが多かったパターンに近いものから選んでいるという方向性です。経費率もその分析材料の1つではあるのでしょうが、合否のラインとして公表されている数字ではありません。

規模感も書いておきます。年73万6千件の「調査等」のうち、調査官が実際に訪ねてくる実地調査は4万7千件。残りの大部分は、文書や電話で申告内容を確認される「簡易な接触」と呼ばれるものです。闇雲に怖がるような頻度ではない一方、データで選ばれる時代になっているのは確かなようです。

売上より経費が多い年はどうなる?——赤字=即調査ではない

割合の話で、もう1つ気になっていたことがあります。経費率どころか、売上より経費のほうが多くなってしまった年。つまり赤字です。「赤字で申告したら目をつけられるのでは」という不安は、検索してみると僕だけのものではないようでした

調べた範囲の事実を並べます。

  • 開業して間もない時期の赤字は珍しいことではなく、「赤字だから自動的に調査される」という基準は公表されていません。見られるのは赤字かどうかより、その中身が実態どおりかです
  • むしろ青色申告なら、赤字は使い道があります。国税庁タックスアンサーNo.2070「青色申告制度」では、《損益通算しても引き切れない損失(純損失)は、翌年以後3年間にわたって繰り越して各年の所得から差し引ける》とまとめられています
  • ただしこの繰り越しには、赤字の年もきちんと確定申告しておくことが必要です

赤字を恐れて本当の経費を削るより、正しく申告して翌年の黒字と相殺するほうが筋がいい。青色申告の条件やメリットの全体は記事25(65万円控除の条件)で詳しく扱っています。

割合が高くても説明できれば問題ない。低くてもウソならアウト

ここから言えることは2つあります。

1つ目。実態どおりの経費なら、割合が高くても堂々と説明すればいいということです。例えば僕が今働かせてもらっている運送の仕事のように、燃料費や車両費がかさむ業種は経費率が高くて当たり前です。割合を気にして、本当は経費にできる支出をわざと申告しない人もいるようですが、それをすると所得が実際より大きく計算されて、払わなくていいはずの税金まで払うことになります。

2つ目は逆のパターンです。割合を低く抑えていても、中身に架空の経費が混ざっていれば意味がありません。調査で領収書や帳簿を確認されれば、実態のない経費はそこでわかってしまいます。割合が低いからといって、中身のウソまで隠せるわけではないのです。

結局、見られているのは割合ではなく中身でした。「この支出は事業のためだった」と記録で示せるか?に尽きます。では、何が「事業のための支出」と認められて、何が認められないのか。その線引きは業種によって決まっているのか。次の誤解③で、車や家賃といった具体的な品目に落として確かめます。

誤解③「業種ごとに落とせる物が決まっている」

デスクワークの車も、運送業のオフィスも「アリ得る」

いよいよ冒頭の疑問に戻ります。デスクワークの人が車を買ったら経費になるのか。運送業がレンタルオフィスを借りたら落ちるのか。

答えの根拠は、最初に見た国税庁No.2210の中にありました。

同じページでは家事関連費という考え方について、《生活のための費用は必要経費にならない。ただし1つの支出が生活と事業の両方にかかわる場合(家事関連費)は、取引の記録などに基づいて、業務のために直接必要だったと明らかに区分できるときの、その区分できる金額だけが経費になる》とまとめられています。

注目したいのは、ここに業種の話が一切出てこないことです。線を引いているのは「何の仕事か」ではなく、「その支出を事業にどう使ったか」と「それを区分して示せるか」の2点だけ。だからデスクワークの人の車も、打ち合わせ先への移動や機材の運搬に本当に使っているなら、その部分は経費になり得ます。運送業のレンタルオフィスも、請求書の発行や帳簿づけに使う仕事場なら同じです。

逆に言えば、運送業だからといって車の購入額がまるごと落ちるわけでもありません。通勤や家族の送迎といった生活の使用が混ざるなら、その部分は経費になりません。業種が線を引くわけじゃない。使い方が線を引く。これが誤解③の答えです。

品目別の線引き早見表——車・家賃・携帯・パソコン・交通費

考え方がわかったところで、検索の多い品目に当てはめてみます。どの品目も共通のルールは1つ、「事業に使った部分だけ経費で落とせる」です。

品目経費になる部分の考え方よくある勘違い
車(購入費)事業に使った割合の分だけ。購入額は耐用年数で分割(次の試算参照)「買えば全額落ちる」「デスクワークは一切ダメ」のどちらも誤り
自宅の家賃仕事に使っている部分を、広さや時間などの実態で区分できる場合のその分だけ(計算手順は後述しません)「家賃の◯%まで」という公式の決まりがあるわけではない
携帯代事業の連絡や調べ物に使っている実態の分だけ「一律◯割までOK」という決まりはない(記事末尾の疑問コーナーで補足)
パソコン事業用なら全額が経費になり得る。金額によって計上のしかたが変わる(同じく記事末尾で補足)「10万円を超えると経費にできない」は誤り。分割になるだけ
電車・バス代事業の移動なら経費。領収書が出なくても記録で残せる(すぐ後で説明)「領収書がない=経費にできない」は誤り

読み方の例を挙げます。自宅の一室で仕事をしている人なら、家賃のうち仕事部屋に相当する部分だけが経費の候補になります。「いくらまで」という金額の上限ではなく、実態で区分できる範囲が答えになるわけです。なお、区分の具体的な計算手順(家事按分のやり方)はそれだけで1記事になる話なので、この記事では踏み込みません。

400万円の車は年いくら落ちるのか——距離が決める

では冒頭の「メインの仕事がデスクワークの人が車を経費で落とす場合」を、数字で確かめてみます。経費にするまでは、3段階で考えるとわかりやすいと思いました。

1段:支払った——400万円の新車を買った。領収書や契約書が証拠になります

2段:使った——新車の普通自動車は、国税庁の耐用年数表で法定耐用年数6年。400万円÷6年で年あたり約66.7万円が分割の単位です

3段:事業に必要だった——その66.7万円のうち、事業に使った割合だけが経費になります

仮の数字で計算してみます。年の総走行距離を8,000kmとして(この8,000kmはあくまで僕が置いた仮定値です)、そのうち事業の移動が40kmだけなら、事業割合は0.5%。年に経費にできるのは66.7万円×0.5%で約3,300円です。400万円の買い物が、年3,300円。「車を買って節税」のイメージとはずいぶん違う数字ではないでしょうか。

逆に、その40kmの移動で払った高速代やガソリン代のような、事業のためと直接わかる支出は、その日の分の全額が経費になり得ます。車両の購入費は距離(使用実態)が決め、直接かかった費用、ここで言えばガソリン代や高速代は使った事実が決める。これが「メインの仕事がデスクワークの人が車を経費で落とす場合」の現実的な答えです。

領収書のない交通費(電車・バス)はどうする

最後に、早見表で後回しにした電車・バス代です。改札を通るだけの移動は領収書が出ません。「領収書がないと経費にできないのでは」と僕も思っていましたが、領収書がなければ経費にできない、という決まりはありませんでした。

ここまで読んだ方ならもう答えは見えていると思います。大事なのは紙の領収書そのものではなく、支出の事実と事業の目的を記録で示せることです。

実務では、日付・区間・金額・目的(どこの誰を訪ねたか)を出金伝票や帳簿にその都度書き残しておくやり方が広く使われています。交通系ICカードの利用履歴を残しておけば、記録の裏付けとしてさらに心強くなります。

気づけばこの記事は、どの品目の話をしても「記録」に戻ってきます。按分の割合も、領収書のない交通費も、根拠になるのは日々の記録だけだからです。

「事業に使った分」の根拠づくりを習慣にするなら

按分の割合や交通費のメモは、年末にまとめて思い出そうとしても再現できません。日々の取引をその場で記録する仕組みを最初に作ってしまうのが現実的です。

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「ウソをつき通せば落とせるのでは?」——僕が思いついた3つの疑問

正直に書きます。ここまで調べていて、僕の頭にも一瞬よぎった疑問がありました。「結局、使ったことにして押し通せば落とせるんじゃないか」。誘惑というより、制度の仕組みを知りたかったからです。

先に言っておくと、これをやってしまえば脱税です。ただ「なぜダメなのか」を自分の言葉で納得したくて、僕が思いついた3つの疑問を調べてみたら、答えはすべて同じ結論につながりました。

問い①「使ったことにしたら」どうなる

最初の問いはこれです。私用の支出を「事業に使った」ことにして経費に入れたら、どうなるのか。

そもそも日本の申告は申告納税制度といって、まず納税者の自己申告を信じる仕組みです。財務省の「加算税制度の概要」でも、《加算税は、申告納税制度の定着と発展のため、申告義務が適正に果たされない場合に課される行政制裁的なもの》と説明されています。つまり提出時点では細かく裏取りされない。だから「いけるかも」と思ってしまうわけです。

ところが調査になった瞬間、話が変わります。

たとえば車なら、保険の契約に書かれた使用目的、実際の走行記録、その日の仕事の予定。これらと突き合わせて「本当に事業に使ったのか」が確認されます。使ってもいない移動は、どこにも裏付けが残っていません。「使ったことにする」は、調べられた瞬間に裏が取れない。これが1つ目の答えでした。

問い②「私用の記録を証拠に仕立てたら」どうなる

では記録さえ作っておけばいいのか。これが2つ目の問いでした。私用の外出を、それらしい行き先のメモにして残しておく、というような発想です。

ここで大事なことに気づきました。記録が証明できるのは「その日にそこへ行った」という使用の事実だけで、「それが事業のためだった」ことまでは証明してくれないのです。

訪ねた先に取引の実態がなければ、売上にも請求にもつながっていない移動として矛盾が残ります。税務署には反面調査といって、取引先の側に「本当にこの取引はありましたか」と確認する調査の手段もあるので、相手の帳簿と突き合わされれば話は合いません。

さらに怖いのはここからです。記録を周到に作り込むほど、それは「うっかりの間違い」ではなく意図的な仮装・隠蔽の証拠になります。つまり努力の方向が、後で見る重いペナルティに自分から近づいていく。

だからこの記事では、「どうすれば見つからずに済むか」という話には一切踏み込みません。調べた結論として、そういう抜け道は事実として存在せず、踏み込めば読者を不利益に導くだけだからです。

問い③「見つかったら何を払う」のか

3つ目の問いは、最悪の場合いくら払うのか。財務省の資料と国税通則法をもとに、ケース別に並べます。

ケース本税に加えて払うもの税率の目安
計算ミスなどを調査後に直した過少申告加算税追加税額の10%(期限内の申告額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)
仮装・隠蔽があった(申告はしていた)重加算税35%
仮装・隠蔽があった(そもそも無申告)重加算税40%
過去5年内に同種を繰り返した上記にさらに加重+10%(最大45%・50%)

これに加えて、納付が遅れた期間には延滞税がかかります。しかも仮装・隠蔽があった場合は、延滞税の計算期間を短くしてくれる特例が使えず、延滞税まで重くなりやすい仕組みです。

さきほどの400万円の車で考えてみます。

仮にこの車を「全額事業で使った」と偽って、本来より120万円多く経費に入れていたとします。これが仮装・隠蔽と認定されれば、減らしていた税金そのものを後から払うのに加えて、その税額に35%の重加算税が乗り、さらに延滞税まで上乗せされます。ちょっと得しようとしたはずが、本来の税金に35%も40%も積み増しされて返ってくる。これはもう脱税という名前のとおり、割に合わない行為ですね。

3つの疑問を調べた答えは、どれも同じ結論でした。ウソは押し通せません。記録の偽装はかえって自分を追い込みます

抜け道を3つとも探して、どれも成立しないとわかった結果、「結局まっとうなやり方だけが最も節税になる」という考えでした。本当に事業に使った支出を、使ったとおりに記録しておくことです。地味ですが、税務署に聞かれたとき自分を守ってくれるのは結局のところこれだけでした。

「説明の裏付け」を日々ためておくなら

事業に使った事実はその場で残すのがいちばん確実です。レシートを後から探し回るより、支払ったその瞬間に記録してしまうほうが結局はラクだと感じました。

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税務署には何をどこまで報告するのか——提出は薄く、保存は厚く

ここまで「記録が大事」と繰り返してきました。では、その記録は申告のときに税務署へ全部見せるのでしょうか。調べてみると、ここにも僕の思い込みがありました。

申告で出すのは「結果の数字」だけ

確定申告で税務署に渡すのは、確定申告書と、青色申告なら青色申告決算書(白色なら収支内訳書)です。決算書には、1年の売上や経費を種類ごとに集計した金額を書きます。車のような資産については、減価償却費の計算欄に「事業専用割合」として何%を事業に使ったかを記入します。

意外だったのはここからです。この決算書に、領収書や帳簿そのものを添付して出す欄はありません。減価償却の事業割合も、数字を書くだけで「なぜその割合なのか」の証拠を一緒に出すわけではない。申告の瞬間に税務署へ渡すのは、根拠ではなく結果の数字だけなのです。

保存の義務と、開業届を出していない場合

では根拠はどこへいくのか。提出しない代わりに、手元で「保存」することが義務づけられています。

国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」やNo.2080「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」では、《青色申告者は帳簿を7年間、書類を5〜7年間保存する。白色申告者にも記帳の義務があり、収入や経費を記載した法定帳簿は7年間、それ以外の任意帳簿や書類は5年間保存する》とまとめられています。

白色だからといって帳簿を5年で処分してしまうと、肝心の法定帳簿が保存義務違反になりかねないので注意してください。迷うなら、すべてまとめて7年保存しておくのが確実です。

検索が多かった「開業届を出していないと経費にできないのでは」という不安にも、ここで触れておきます。

  • 経費かどうかを決めるのは、前述の「結論:法律に『年間◯万円まで』は存在しない」で見たNo.2210のとおり事業との関係であって、開業届を出したかどうかではありません。開業届が未提出でも、事業のための支出なら経費計上はできます
  • ただし、65万円控除のような青色申告の特典を受けるには、別に承認の申請が必要です。開業届とあわせた手続きそのものは記事11(開業届の出し方)で詳しく扱っています
  • 提出は任意でも、出しておくと事業の実態を示しやすくなる、という実務上のメリットはあります

記録から申告まで一本でつなぐなら

日々の記録と、年に一度の申告。この2つが別々の作業になると、申告前にまとめて思い出す羽目になります。記録した数字がそのまま決算書に集計されていく仕組みだと、この負担がぐっと軽くなります。

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怖いのは申告の日ではなく「聞かれた日」

ここまでの話を並べて分かってきたことがあります。税務署への提出は薄く、手元での保存は厚く。申告の日は数字を書いて出すだけで、あっけないほど簡単に終わります。

本当の勝負はその後です。数年たってから「あの車の事業割合の根拠は?」「この経費は何のため?」と聞かれた日に、記録を出して説明できるかどうか。怖いのは申告の日ではなく、「後で聞かれた日に何も出せない」ということでした。

経費の上限額を気にしていた当初の僕は、心配する場所をまるごと間違えていたわけです。守ってくれるのは上限の知識ではなく、日々の記録の習慣だけでした。

よくある疑問に3つだけ即答します

本文に入れると長くなる細かい疑問を、最後にまとめて答えます。どれも検索でよく見かけたものです。

Q1.パソコンは10万円を超えたら経費にできない?

A.できないわけではありません。

10万円という金額は「経費にできるかどうか」の線ではなく、「どう計上するか」の分かれ目です。前述の「金額の決まりが出てくるのは『高い買い物』をしたときだけ」で見たとおり、10万円未満なら買った年に全額、10万円以上20万円未満なら3年に分けて、というように計上のしかたが変わるだけです。さらに青色申告なら、2026年4月1日以後に買った40万円未満の物は、特例でその年に全額を経費にできます。

金額が大きいほど分割されるだけで、最終的には事業に使った分が経費になります。

Q2.スマホ代は何割まで経費にできる?

A.「何割まで」という決まった上限はありません

これも誤解②で見たのと同じで、「◯割までならOK」という公的な基準は存在しないからです。考え方はシンプルで、事業に使っている実態の割合だけが経費になります。たとえば仕事の連絡と私用が半々なら半分、という具合に、自分で合理的に区分して説明できることが大事です。

きりのいい数字に頼るのではなく、実態に近い割合を記録とセットで残しておきましょう。

Q3.開業前に買った物は経費にできる?

A.できる場合があります

開業の準備のために使ったお金は「開業費」としてまとめておき、開業後に必要なタイミングで経費にしていけます。「何年前まで」といった細かい線引きや手続きはこの記事では踏み込みませんが、ポイントは開業前であっても領収書をきちんと保存しておくことです。準備期間の支出も、事業との関係を記録で示せれば経費の候補になります。

まとめ:経費に上限はない。あるのは「説明できるか」だけ

長くなったので、3つの誤解の答えをもう一度だけ並べます。

①「年間いくらまで」という金額の壁はありませんでした。金額が出てくるのは高い買い物を何年に分けるかという話で、2026年4月からは40万円未満まで一括にできる特例も広がっています。

②「経費が売上の◯%を超えたら危ない」という公的な基準も見つかりませんでした。見られているのは割合ではなく中身です。

③「業種ごとに落とせる物が決まっている」もありませんでした。業種ではなく、その支出を事業にどう使ったかが線を引きます。

3つに共通する答えは1つです。経費を決めるのは金額でも割合でも業種でもなく、「この支出は事業のためだった」と記録で説明できるか。上限を気にしていた僕は、心配する場所を間違えていました。

怖いのは申告の日ではありません。後で聞かれた日に、何も出せないことです。だから今日からできるいちばんの備えは、節税の裏ワザ探しではなく、日々の支出をその場で記録する習慣をつくることだと思います。

なお、この記事は経費の線引きだけに絞りました。開業の届け出から青色申告、会計ソフト選びまで、独立に必要な手続きの全体像は開業準備の全体ガイドで順番に確認できます。経費の話は、その全体の中の一部分にすぎません。

専門家ではない僕が一次ソースを頼りに調べた範囲なので、個別の判断は最後に税務署や税理士へ確認してください。最後に、「上限はいくらまで」で検索していた僕が、みなさんにいちばん伝えたいことを書きます。上限額を怖がる必要はありません。本当に事業で使った支出を使ったとおりに記録しておけば、それがそのまま自分を守ってくれます。

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出典一覧

  1. 国税庁タックスアンサーNo.2210「必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)
    URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
    確認日:2026年6月8日
  2. 国税庁タックスアンサーNo.2100「減価償却のあらまし」(令和7年4月1日現在法令等)
    URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
    確認日:2026年6月8日
  3. 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月閣議決定・少額減価償却資産の特例の拡充/所得税についても同様とする旨)
    URL:https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/08taikou_03.htm
    確認日:2026年6月8日
  4. 中小企業庁「少額減価償却資産の特例」(取得価額40万円未満/合計300万円まで/中小企業者は従業員400名以下)
    URL:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/tokurei/syougaku_shisan.html
    確認日:2026年6月8日
  5. 国税庁タックスアンサーNo.2070「青色申告制度」(純損失の3年間繰越し)
    URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2070.htm
    確認日:2026年6月8日
  6. 国税庁・確定申告書等作成コーナー「耐用年数(車両・運搬具/工具等)」(新車の普通自動車=法定耐用年数6年)
    URL:https://www.keisan.nta.go.jp/r5yokuaru/aoiroshinkoku/hitsuyokeihi/genkashokyakuhi/taiyonensusharyou.html
    確認日:2026年6月8日
  7. 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)
    URL:https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/shotoku_shohi/index.htm
    確認日:2026年6月8日
  8. 財務省「加算税制度の概要」(納税環境整備に関する基本的な資料・過少申告加算税/重加算税/国税通則法第65条・第68条)
    URL:https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/tins/n04_3.pdf
    確認日:2026年6月8日
  9. 国税庁「記帳や帳簿等保存・青色申告」(帳簿・書類の保存期間)
    URL:https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/01_2.htm
    確認日:2026年6月8日
  10. 国税庁タックスアンサーNo.2080「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」(法定帳簿7年・任意帳簿や書類5年)
    URL:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2080.htm
    確認日:2026年6月8日
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